銀行店舗のATMで現金を引き出したら、「新紙幣」が出てきた。
いわゆる渋沢栄一である。
そのデザインは、ユーロ紙幣を連想させた。
数字が大きく書かれて、認識しやすくなった一方、軽い感じが否めない。
私は次の目的地のドラッグストアに向かった。
炎天下。
陽射しが鬼のように熱い。
交差点で車椅子の人を見た。
その人は、信号待ちのため、ピタッと止まった。
その瞬間、ドサッと、何かが落ちるのが見えた。
近寄るとそれは長財布である。
落ちた衝撃で、パラッと開いてしまい、
千円札やクレジットカードなどが見える。
私は、驚いて、こう言う。
「落ちましたよ!」
反応が何もない。
聞こえていないのだ。
ふと耳元を見ると、イヤホンをしている。
そう、音楽などを聴いているのだ。
だから財布が落ちた音にも気が付かないのだろう。
私は、その人の前面に回り込み、
「財布が落ちました」
と指で示す。
「え?あ?マジ?」というような声を上げて、その人は車椅子の下を見る。
「え!やべっ!」という声も上がった。
その人はパニックになったようで、私に礼は言わず、
「やべー、やべー」と繰り返していた。
ショルダーバッグのチャックを閉め忘れていて、
交差点で止まった衝撃で、長財布が落ちたようだ。
イヤホン。
恐ろしいことだ。
財布が落ちた音も聞こえないのだ。