「予想に反して」文化人類学の本。
私は単に中国のムスリムについて知りたかった。
この本を読んでいて思い出したのは、レヴィ゠ストロースの「悲しき熱帯」であった。
それはこんな感じで始まる。
「私は旅や探検家が嫌いだ。それなのに、いま私はこうして自分の探検旅行のことを語ろうとしている」(中央公論社)
「中国人ムスリムの末裔たち」は、ミャンマー(ビルマ)へ行く過程が、語られている。その恵まれた(と私は思った)境遇や、立場、あるいは才能に対して、「何て私はこんなに不運なのか」と語られて、鼻白むが、それこそが魅力なのだ。
ミャンマーでの6ヵ月間の研究の間、3歳(滞在中に4歳になる)息子さんとの生活。
旦那さんは、仕事のため日本で生活し、週末にミャンマーを訪れる。
また、ご両親がときどき、日本から手伝いに来る。
そういう生活をベースにして、ミャンマーのムスリム(イスラーム教徒)「パンデー」についての研究を続ける。
この「パンデー」というのは、雲南省を「故郷」とするムスリムである。だから書名の「中国人ムスリム」となる。
中国のムスリムというと、テュルク系のウイグルを連想してしまうが、そうではなかった。
「パンデー」を追う旅は、個人的になかなか刺激的で興味深かった。
それに色を添えるのが「左の角を曲がらなければならない時に、確信をもって右へと折れてしまう」(p.262)という、著者が遭遇するトラブルである。十分に対策をすれば、回避できそうな事象も、(ワザとなのか)あえて回避しない。
多少、イラつくが、それこそが魅力でもあるのだろう。
そして巻末には、高野秀行さんの「ビルマ・アヘン王国潜入記」が参考文献として挙げられている。
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