南米。
ボリビア共和国。
サンタクルス市郊外に、沖縄移住地がある。
そこは「コロニア・オキナワ」として知られている。
雛祭りが近づくと、そのことを思い出すのだ。
--------------------------------------------------------------
こんな歌が聞こえてきた。
明かりを つけましょう
桃のお花を あげましょう
(歌詞はワザと変えている)
その歌声を聴いたときに、大きな衝撃を受けた。
ああそうだ、ああそうだ。
3月になる。
あと、1週間もすれば、3月なのだ。
そして、「雛祭り」が来るのだ。
今、ボリビア低地地方は夏のように暑いけれど、日本では冬なのだ。
ボリビア共和国、低地地方。
サンタクルス郊外。
コロニアオキナワの「文化会館」内部を見学させてもらった時の話だ。
ロビーでは、NHKが映されている。
衛星放送だ。
これを見ると、日本と繋がっている感じがするから不思議だ。
文化会館には、図書室があり、そこも見学させて頂いた。
マックスウェーバー
「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
があったので手に取って読んでみる。
驚くほど素直に、文字が飛び込んでくるのが分かる。
活字に飢えているのだ。
文化会館には、「書初め」も展示してあって、毛筆の書が、目に鮮やかに写る。
書初めを見ていた時に、聞こえて来たのが、「ひな祭りの歌」だった。
そのあと、こんな歌も聞こえてきた。
いーつのことーだかー 思い出して みなさい
あんなことや、そんなこと、いろいろなことがありましたね
(歌詞はワザと変えている)
何かの行事で歌う歌を練習しているのだ。
日本人移民たちが。
一世なのか、二世なのか分からない。
だが、この歌を歌っているのは、ここに暮らす日本人であることは間違いない。
その歌が、私の子供時代を思い出させた。
メロディや、歌詞に秘められた記憶。
もう戻れない時代。
もう戻れないあの国の、あの時代の、あの土地。
失って、失って、それでも生きていく人たち。
私は移民になれないし、移民の人たちは、旅人ではない。
そんな人たちが歌う歌。
日本で暮らしている人たちは、その歌をどう思うのだろう?
何も感じず、何も思わず、生きていくのだろうか。
日本で暮らしている日本人も、時代が変われば、変わっていくように
ボリビアで暮らしている日本人も変わっていくのだろう。
そして、旅を続ける人たちは、その人なりに変わっていくのだろう。
私は日本を出てから、2年になろうとしていた。
アジア、中東、欧州、アフリカそして南米まで来ていた。
日本から遠い遠い場所を旅していた。
そこで出会ったのが「日本の文化」だったのだ。
もう戻れないあのとき、あの国のことが、思い出された。
文化会館を出ると、公園に鳥居があった。
日本の象徴は、鳥居なのだ。
何かこの場所にいて、自分の中に、ひっそりとあった日本が
そう、幼いころに沁みついていた日本が、
急に動き出したような気がした。
私は、鳥居のある公園で、声を抑えて泣いた。