想像以上によかった。
事前知識は何もなく、タイトルだけで選んだ本。
内田樹先生の評判も知らなかった。
本を選んだ後に、「凄い人もいるもんだ」と感じて検索して、いろいろと面白いことが分かったのだ。
構造主義の本をそれなりに(10冊ぐらいは)読んだ上で、この本を読んだせいか、今までモヤモヤとしていたものが、霧が晴れたように、すがすがしい気持ちになった。
分かりやすいかというと、そうでもない箇所もあるが、この清々しさは何だろう。
読みづらい新書が多かった昔と比べて、この10年ほどは、分かりやすい新書が増えていると感じているが、それ以上のものである。
■この本の印象的な箇所。
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自分が話していることばは過去に聞いたことばである。
生産関係の中で「作り出したもの」を媒介にして、人間はおのれの本質を見てとる。
あるものの性質や意味や機能はそのものがそれを含むネットワーク、あるいはシステムの中でそれがどんなポジションを占めているかによって事後的に決定されるのであって、そのもの自体のうちに、生得的に、あるいは本質的に何らかの性質や意味が内在しているわけではない。
人間が社会構造を作り上げてきたわけではなく、社会構造が人間を作り出してきたのであって、社会構造は私たちの人間的感情や人間的論理に先立って、すでにそこにあり、むしろ社会構造が、私たちの感情や論理の文法を事後的に構成しているのです。
構造主義のさまざまな理説のちで、日本人の精神にもっとも深く根づき、よく「こなれた」のは他ならぬバルトの知見である、と私は思っています。(略)
それはロラン・バルトが、日本文化を記号運用の「理想」とみなすという、とんでもない「偏見」の持ち主だったからです。P.134
他者と「ことば」を共有し、「物語」を共有すること、それが人間の人間性の根本的条件です。
「人間社会は同じ状態にあり続けることができない」と「私たちが欲するものは、まず他者に与えなければならない」という二つのルールです。P.165
人々が独裁者を恐れるのは、彼が「権力を持っているから」ではありません。そうではなく、「権力をどのような基準で行使するのか予測できないから」なのです。P.192
私たちは他人に権力的な影響力を行使しようとするとき、必ず「理不尽」になりますP.192
他の人々とことばをかわし、愛をかわし、財貨とサービスをかわし合う贈与と返礼の往還運動のうちに巻き込むことに他なりません。P.197
レヴィ=ストロースは要するに「みんな仲良くしようね」と言っており、バルトは「ことばづかいで人は決まる」と言っており、ラカンは「大人になれよ」と言っており、フーコーは「私はバカが嫌いだ」と言っているのでした。P.200
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私が世界一周をしながら、感じてきたこと。
その答えのヒントのようなものを提供してくれるのが本書であった。
ヘタレの私には、内田樹先生の思想には付いていけそうにもないし、100パーセントの同意や、心酔は無いけれど、少なくとも読者のために分かりやすい表現を心がけ、それが成功している本書の価値は高いと感じる。
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