実に面白い。
圧倒された。
【無人島に持って行きたい100冊】の候補。
しかし、読みながら「トゲ」のようなものが、常に引っかかっていた。
■本書の内容
戦後まもなく(1949年の秋、月島で、と書かれている)全国の農漁村に眠る膨大な古文書を集め、社会資料館をつくるという壮大な構想があった。水産庁から「日本常民文化研究所」に、その事業は委託された。
月島分室を主宰したのが、宇野脩平であり、若き日の宮本常一、そして著者(網野善彦)たちも調査員として参加した。
計画は財政難で頓挫する。「研究所」は閉鎖され、著者も「研究所」を辞し、高校や大学で教鞭を取り糊口をしのぐ。
所有者から借りた膨大な古文書が、借用期限を過ぎても返却されないままで、「リンゴ箱」や「段ボール箱」に放置されたままになってしまう。その数は、100万点にも及ぶ。
著者は、長年、そのことが心にひっかかっていたが、予算不足での事業打ち切りであり、また主要メンバーが相次いで亡くなると言う不運も重なり、個人の力では何ともし難いものがあったという。
後始末を託された著者は、40年の歳月を掛けて、古文書返却の旅に出た。
「叱られて当然の憂鬱な旅」であったと覚悟していたが、各地で「歓待」される。(私個人は、「歓待」とはいっても、複雑な感情を押し殺した「歓待」であろうと感じられたが)
返却の旅では、新たに「古文書の調査」なども依頼され、新しい発見も生まれる。「歴史観や民衆観に大きな変更を迫られた」という。
■概略
本書の概略は下記の通り。
■印象
特に印象的なのは、奥能登(時国家)である。古文書返却をした著者たちに、時国家はさらに2万点もの古文書の調査を依頼する。10年もの年月をかけ、著者たちは古文書を読み解いていく。この過程での「意識の変更」が印象的である。
著者は、能登は、古代から中世にかけ、罪人が流される「辺境」の地であり土地の少ない貧しい地方であるという思い込みがあった。さらに、時国家も「農奴主的な豪農」だという先入観があった。だが、実際は大船をもち、松前で昆布を仕入れ、京、大坂、大津などで売却。さらには、塩浜や、鉱山開発も行っていたという。時国家が、「多角的経営者」であり、百姓は農民、水呑は貧農(表記本書のママ)、という教科書的な概念が否定されていく。
江戸時代=「農業社会」ではなく、「経済社会」だったのではという著者の見方が変わる。「士農工商は、虚像であり、社会の実態を著しく見誤らせる最大の原因である」。
■モヤモヤ感
私の感じたモヤモヤの大きなものは、多くの人たちが、実名で登場していることだろう。しかも、批判的な見方もされている。著者からの一方的な見方が、必ずしも正しくないのではと、私には感じられて、何とも言えない虚しさに支配された。令和の時代には、こういう実名での「言及」は無理だろう。
さらに、古文書を借用して調査するというのは意外だった(しかも返却期限を過ぎても返却できなくなるとは)。持ち出さずに、その場で調査するのだと思っていた。
また、博物館などで、閲覧できる古文書は、善意の寄贈が多いのではと、本書を読んでしみじみと感じた。